
環境と経済のバランスをとる
- 飯田 健志
- IIDA Takeshi
- 国際地域学部 准教授(環境経済学)
Profile
岐阜県出身。2007年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程前期課程修了。2010年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了。2013年、福井大学教育地域科学部講師。2016年、同大国際地域学部講師。2021年より現職。
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気候変動への対応を考える
記録的な豪雨に猛暑、深刻な干ばつ……。近年異常気象による自然災害が多発するようになりました。地球温暖化の影響による気候変動の一端です。その被害をより受けやすいのが、十分な適応手段のない途上国の人々、先進国であっても高齢者、子どもといった弱者です。私たちの子供や孫といった将来の世代のことを考えれば、決して他人ごとではない。自分のことなのです。
企業や人が何かを生産したり、運んだり、消費したりという経済活動によって、それらの活動とは直接関係のない他者、いわば「外部」に悪い影響を及ぼすことがあります。例をあげれば、化石燃料の使用が主な要因である気候変動問題や工場のばい煙、排水などに起因する公害です。大気や水といった環境を「タダ」で使い、経済活動の「外部」と見なして保護しないことが、環境問題の根本の原因でしょう。「外部」で発生するコストを、政策などで経済活動の「内部」に算入することが環境問題解決の糸口と私たち環境経済学者は考えます。
イノベーションが鍵を握る
例えば、温暖化防止への政策である「炭素税」。自動車の生産工程で考えると、大まかに部品の生産と組み立ての二つの工程になります。そのどちらの工程でも二酸化炭素が排出されます。そこで企業は生産コストを下げようと、部品の生産拠点を炭素税のかからない国に移します。しかしそれでは世界全体の二酸化炭素排出量は変わりません。
私が最近論文で示した理論モデルでは、仮に国内の炭素税に高い税率を課しても、部品の生産拠点は国外に移らないという結果になりました。部品を炭素税のかからない国外に移すことで、そこでの生産コストは下がりますが、その分、最終的な生産台数が増え、結果として国内にとどまる組み立て工程からの二酸化炭素の排出量が増大し、総コストが上がってしまうからです。
生産活動を抑制せずに気候変動問題を解決するには、低炭素技術のイノベーションが不可欠です。特に、先進国の持つ二酸化炭素の削減技術を途上国に移転するなどして、途上国でイノベーションを起こすことが肝要でしょう。そのような政策?制度の設計につながる理論を構築することが今後の大きなテーマです。

炭素税率と部品の海外生産委託との関係
図の引用元:Iida, T. Mukherjee, A. 2025. Environmental taxes, offshoring and welfare: The effects of environmental damage and pollution intensity.
Journal of Environmental Economics and Management 130,103075.
甥っ子や娘たちの影響でポケモンにハマってます。ピカチュウにも性別があることを、つい最近教えてもらいました。
